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会社経営者(社長)の夫をもつ妻のための離婚 について~共有財産の形成への妻の寄与等について(東京地裁平成15年9月26日判決)~

  • 会社経営者(社長)
本件は、婚姻中に約220億円の資産を形成した一部上場企業の代表取締役である夫が、妻に対し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を求めた事案です。

妻側も、反訴を提起し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を求めるとともに、別居開始当時の財産のほぼ半額を、慰謝料も加味した財産分与として、その分与を求めました。

夫側は、主に、現有財産は、夫がその特有財産を夫の才覚によって増加させたものであるから、財産分与は認められない旨主張して、妻の主張を争いました。

東京地裁平成15年9月26日判決は、夫婦の婚姻の破綻には、主として、夫に責任があると解するのが相当である旨認めたうえで、妻の財産形成の寄与の有無、程度について、以下のとおりの判断を示しました。

財産分与の対象財産について

「(1)財産分与の対象財産

(ア)前記認定の原被告の生活状況からすると、被告の寄与が問題となるのは、原告と被告が、継続的な同居を始めた昭和■年以降と解するのが相当である。

そうすると、取得時期の観点からすると、分与の対象となる共有財産となりうるのは、原則として、その後原告が取得した財産と解すべきであるから、■所在不動産、■所在不動産、■所在不動産、■社株式は特有財産といえ、直接は財産分与の対象とならない。

被告は、■社株式については、被告が■社の業績に寄与し、その株価上昇に寄与したものであるから、実質的な婚姻開始時から別居時までの値上がり分を財産分与の対象とすべきであると主張するところ、それが問題となるのは、別居時である平成■年■月■日の価格から昭和■年の価格を控除したものとなるが、甲5の1によると昭和■年■月の1株当たりの単価は■円であるのに対し、乙21の1によると、別居時である平成■年■月の1株当たりの調整後最終値は■円であるから、別紙特有財産原資明細記載の無担保増資を考慮にいれても、値上がり分は存在しないから、■社株式を分与の対象とする共有財産と見ることはできない。

(イ)これらの財産のうち、主なものは■株式であるところ、その平成■年■月■日時点の価格は、43億円を下らない(■円×■万■)と解される。

 そこで、直接財産分与の対象となるかが問題となるのは、次の財産のみとなる。
(ア) 預金等  原告保有預金等 217億■円■円

(イ) 不動産  ■土地及び■ビル持分
なお、この評価については、確たる証拠はないが、乙98の1ないし3によると、平成■年■月■日時点の、■土地の簡易評価が1億0774万4000円であること、前記認定のとおり平成■年度の固定資産税評価額が■土地が2401万2300円であって、■建物が1億1994万9458円であることも考慮すると、平成■年■月■日の芝浦土地建物を合計した評価は約2億円と解するのが相当である。

(ウ) 株式
a ■社株 350万株  乙100及び弁論の全趣旨によると、2億6400万5000円であると認められる。
b ■株   10万株  この時価を認定する確実な証拠はない。

(エ) そうすると、これらの総額は222億円を下らない。

 イ記載の各財産の具体的な原資を直接認めるに足りる証拠はない。
しかし、他方、前記認定のとおり、平成■年までの原告の収入としては性質上原告の特有財産である■社株式の売却益約206億円及びその運用益があり、他方、昭和■年から平成■年までの手取給与所得は約3億円であって、それに昭和■年以降の手取給与所得として昭和■年と同様約1200万円があったとして、合計約3億5000万円の給与所得及びその運用益が想定される。

なお、被告は、原告の給与所得及び雑所得は、原被告の生活において全部費消された旨主張するが、前記のとおり、原被告の生活費の総額を特定して認定するに足りる証拠はなく、平成■年度の支出を検討しても、必ずしも、給与所得ないし雑所得の全額に相当する金員が、原告の特有財産の維持のための固定資産税や別居前後以降の特別な支出を除いた場合、原被告の私的な生活費としてすべて費消されているとまでは言い難いこと、原被告が、株式の売却益及びその運用益と給与所得とその運用益を峻別して管理していたとは認めがたいことからすると、3億5000万円の給与所得及びその運用益も、割合は低いとしても、前記の財産の取得原資の一部となった可能性もある。

したがって、上記財産は、財産分与の対象である共有財産と考えるべきであって、前記のとおりその取得原資のほとんどが、原告の特有財産である点は、被告が取得すべき財産分与を算定する際の事情として考慮すれば足りる。

 更に、本件においては、前記のとおり原告は43億円を優に超える巨額の特有財産を有しているが、それについても、被告がその維持に寄与している場合には、財産分与を認めるのが相当である。」

共有財産の形成等への妻の寄与について

「(2)そこで、問題は、被告が上記共有財産の形成や上記特有財産の維持に寄与したか、寄与したとして、その程度が問題となる。

 前記認定のとおり、被告は、■社、■社を初めとする多くの会社の代表者であって、社団法人、財団法人等の多くの理事等を占める、成功した経営者、財界人である原告の、公私に渡る交際を昭和■年頃から平成■年頃までの約15年に亘り妻として支え、また、精神的に原告を支えたことからすると、間接的には、共有財産の形成や特有財産の維持に寄与したことは否定できない。
 なお、この点に関し、原告は、被告が原告の交際を助けた点については、直接利益に繋がるものではなく、経営者、財界人としての社会的責務を果たしたボランティア的なものに過ぎず、原告の財産形成に対しての寄与はまったくなく、むしろ経済的には損失である旨主張する。
 しかし、その社会的責務は、成功者である経営者、財界人としての原告の地位に当然伴うものであること、それを果たさないことは、成功者である経営者、財界人としての原告の地位を脆弱とする危険性も否定できないこと、原告が、被告が社会的責務を果たすことを要請し、具体的な指示もしていることからすると、その社会的責務を共に果たした被告は、間接的には、原告の財産維持、形成に寄与していると解される。

 しかし、他方、前記認定のとおり共有財産の原資はほとんどが原告の特有財産であったこと、その運用、管理に携わったのも原告であること、被告が、具体的に、共有財産の取得に寄与したり、■社の経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると、被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。

 そうすると、原被告の婚姻が破綻したのは、主として原告の責任によるものであること、被告の経歴からして、職業に携わることは期待できず、今後の扶養的な要素も加味すべきことを考慮にいれると、財産分与額は、共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当と認める。」