財産分与と子どもの生活費は別?混同しやすいポイント解説
- 財産分与
離婚を考える際、お金の問題は避けて通れません。特に「財産分与」と、子どものための「養育費」は、離婚後の生活のために重要な問題です。
この「財産分与」と「養育費」は、法律上の目的や性質が全く異なります。「財産分与」と「養育費」の違いを正しく理解しないまま離婚協議を進めてしまうと、後々「こんなはずではなかった」というトラブルに発展しかねません。このコラムでは、財産分与と養育費の違いから、離婚協議書を作成する際のポイントまで、分かりやすく解説します。
目 次 [close]
財産分与と養育費の制度の違い
まず、財産分与と養育費が、法律上どのように違う制度なのかを見ていきましょう。
財産分与の目的
財産分与は、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を、離婚時に清算・分配することを主な目的としています。これには、主に3つの要素が含まれると考えられています。
- 清算的要素: 夫婦の共有財産(預貯金、不動産、株式など)を、それぞれの貢献度に応じて公平に分けることです。実務上、原則として2分の1ずつとする「2分の1ルール」が広く採用されています。
- 扶養的要素: 離婚によって一方の生活が著しく困窮する場合に、その生活を支えるために行われる分与です。
- 慰謝料的要素: 相手の不貞行為など、離婚の原因を作った側が支払う慰謝料の意味合いを含めて財産分与を行うこともあります。
このように、財産分与は夫婦間の財産関係を清算するための制度であり、子どもの生活費とは直接関係ありません。
養育費の性質
養育費とは、子どもが社会的に自立するまでに必要となる生活費や教育費、医療費などのことです。法律上は「子の監護に要する費用」と呼ばれます。
離婚して子を監護しなくなったとしても、親子である関係に変わりはありません。そのため、非監護親は子どもに対して自分と同じ水準の生活を保障する義務(生活保持義務)を負います。養育費は、この親の義務に基づいて支払われるものであり、あくまで子どもの健全な成長のために使われるお金です。財産分与が夫婦間の問題であるのに対し、養育費は子どもに関わる問題という点で、根本的な違いがあります。
財産分与と養育費の取り決めの実務
財産分与と養育費は別の制度ですが、離婚時の話し合いでは、親権や面会交流といった子どもに関する事柄とあわせて、同時に決めるのが一般的です。ここでは、実際の取り決めにおける実務的なポイントを解説します。
支払い方法
財産分与と養育費では、支払い方法も異なります。
財産分与は不動産や株式といった現物で分ける方法と、金銭で支払う方法があります。金銭の場合、原則として一括で支払われることになりますが、合意があれば分割払いも可能です。
一方、養育費は子どもが自立するまで、長期間にわたって毎月定額を支払う方法が基本です。支払額、支払日、振込先口座などを具体的に決めておくことが望ましいです。支払額は、裁判所が公表している「養育費算定表」を基準に金額を決めることが一般的です。
増減の変更
財産分与は、合意や審判で分与の額・方法が決まった場合は、相手方の同意がない限り、これを変更することはできません。
しかし、養育費は財産分与と異なり、養育費の取り決めをした後、当時は予測できなかったような大きな事情の変更(例:支払う側の失業や収入の大幅な減少、受け取る側の再婚・再婚相手と子どもの養子縁組により子どもの一次的な扶養義務者が養親となった、子どもの進学による教育費の増加など)があった場合、家庭裁判所に申し立てることで、養育費の増額または減額が認められる可能性があります。
ただし、事情が変わったからといって、一方的に支払いを止めたり、金額を変更したりすることはできません。相手との合意、または調停や審判といった手続きが必要です。
書面化と履行確保
口約束だけでは、後々のトラブルを防ぐことは困難です。離婚時に決めた財産分与や養育費などの条件は、必ず書面に残し、その支払いを確実にすることが重要です。
協議書の作成
当事者間の話し合いで決まった内容は、「離婚協議書」という書面にまとめます。離婚協議書には、主に以下の内容を盛り込みます。
- 離婚の合意: 協議離婚することに合意した旨。
- 親権者: 未成年の子がいる場合、どちらが親権者となるか(なお、令和6年民法改正によって、令和8年4月1日以降は、共同親権の制度が始まります。)。
- 養育費: 金額、支払期間(「〇歳に達する日の属する月まで」など)、支払日、支払方法。
- 面会交流: 頻度(月1回など)、方法、場所などのルール。
- 財産分与: 対象となる財産と、その分与方法(誰が何を取得するか、金銭で支払う場合はその額と支払方法)。
- 慰謝料: 支払う場合は、その額と支払方法。
- 清算条項: 「本協議書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」という条項。これにより、後からの追加請求を防ぎます。
公正証書の条項例
また、養育費や財産分与など、長期の支払いになる項目がある場合は、公証役場で「公正証書」を作成することをお勧めします。「強制執行認諾文言」を付けることで、公正証書は、調停調書や判決と同じ効力を持ちます。つまり、裁判などを行わなくとも、強制執行手続きを執ることができるのです。
第〇条(養育費) 甲(夫)は乙(妻)に対し、長男〇〇(平成〇年〇月〇日生)の養育費として、令和〇年〇月から同人が満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り、金〇万円を、乙の指定する下記預金口座に振り込んで支払う。
第〇条(強制執行認諾) 甲は、本証書に記載された金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨を認諾した。
【公正証書の養育費条項例】
不履行時の対応
万が一、相手が養育費や財産分与の支払いを怠った場合、取り決めの方法によって対応が異なります。
- 調停や審判で決めた場合: 相手の給与や預金口座などを差し押さえる手続(強制執行手続き)を申し立てることができます。
- 強制執行認諾文言付きの公正証書がある場合:新たに調停や審判手続きを行うことなく、相手の給与や預金口座などを差し押さえる手続(強制執行手続き)を申し立てることができます。
- 当事者間の合意書(私文書)しかない場合:家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立てるなど、債務名義(強制執行によって実現されるべき給付請求権の存在と内容を公に証明し、それに基づいて強制執行を行うことを法律が認めた文書のこと)を得る手続きから始める必要があります。
まとめ
財産分与は、夫婦が婚姻中に築いた財産を清算・分け合う制度であり、子どもの生活費とは別個のものです。
養育費は、離婚後も続く親子関係に基づき、子どもが自立するまでの生活・教育を支えるための費用です。
財産分与と異なり、養育費は収入の変動や進学など事情の変更により、増減が認められる場合があります。
離婚協議では、財産分与と養育費の性質の違いを踏まえ、それぞれの条件を明確に書面化しておくことが重要です。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
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