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養育費の一括支払いを受けた後の追加の養育費の支払請求について

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 離婚時に養育費に関する取り決めを行っても、いつの間にか支払われなくなるケースもあり、養育費を受け取る側にとっては「離婚時に養育費を一括で支払ってほしい」と考える人もいるのではないでしょうか。

 本コラムでは、養育費の一括支払いを受けた後の追加の養育費の支払請求について解説いたします。

養育費の一括払いは可能か

 養育費は、毎月支払うことが基本となります。しかし、父母双方の合意があれば、一括での支払いも可能となります。養育費の支払滞納のリスク回避や、元配偶者との関係を絶ちたいなどの理由があれば、養育費の一括払いについてメリットがあるかもしれません。

 しかしながら、以下のとおり、養育費の一括払いを受けた場合は、その後に事情の変更があったとしても、追加で養育費の請求をすることが困難となることがあります。

養育費の一括支払いを受けた後の追加の養育費の支払請求について

 一般的な養育費の支払いであれば、合意当時に予見できなかった事情の変更があった場合、養育費の変更が認められる可能性が高いです。

 しかし、養育費の一括支払いを受けている場合、ある程度事情が変更することは織り込み済みで合意したと考えられます。そのため、事情変更の判断は、通常の場合よりも厳しくなる可能性があります。

東京高裁平成10年4月6日決定

 既に調停によって抗告人が負担すべき養育費の額が合意されて抗告人はその金額を支払済みであり、調停によって定められたもの以外には何らの金銭請求もしない旨の合意が成立している。しかし、民法880条は、協議又は審判で扶養の程度や方法を定めた後に事情の変更が生じた場合には、先にされた協議又は審判を変更することができる旨規定しているのであるから、前記調停の成立後に、調停時には予見できなかった事情の変更が生じたことにより、調停で定めた養育費の額が事件本人の生活の実情に適さなくなり、新たに養育費を定めるべき相当な事情が生じた場合には、相手方から抗告人に対する養育費の請求が許されることとなる。

 そこで、このような事情の変更が生じているか否かを検討するに、相手方は事件本人が中学校を卒業するまでに抗告人から養育費として支払を受けた1000万円を使い切ったと主張するが、その大半は私立学校の授業料と学習塾の費用であるところ、離婚調停における前記合意よりすれば、相手方は受領した養育費を計画的に使用して、養育に当たるべき義務があるものと解すべきであり、相手方において、事件本人を公立の小中学校に通学させ、学習塾の費用を節約すれば、抗告人から支払を受けた1000万円の大半は使用せずにすみ、事件本人に高等教育を受けさせる費用として使用することが可能であったと考えられるのに、小学校から私立学校に通わせると共に学習塾にも行かせたものである。相手方は抗告人が小学校から一貫して私立学校での教育を受けていることから、事件本人にも私立学校での教育を受けさせるのが相当であると主張するが、前記認定のとおり、当事者間において相手方がその責任において事件本人の養育に当たる旨の合意が成立しているのであり、抗告人は事件本人の養育の方法について具体的な希望を述べた形跡はないのであるから、事件本人の養育方法については、相手方の資力の範囲内で行うべきで、これと無関係に私立学校に通学させるべきものとは認められない。また、私立学校の授業料や学習塾の費用がある時期から急激に高騰したといった事情は認められないから、相手方としては、事件本人を私立学校と学習塾に通わせた場合には、高等教育を受ける以前に抗告人から支払われた養育費を使い尽くすことは当初から容易に予測可能であったと認められるのであり、これを補うためには、相手方自ら稼働して養育費を捻出するか父親からの援助を得ることが必要であったと考えられるが、相手方は離婚後就労状況が安定していないし、家業は父親の存命中から不振続きであったから、これらによって養育費を補填することは当初からあまり期待できない状況にあったと認められる。

 以上の事実によれば、前記の調停成立後にその内容を変更すべき事情の変更が生じたとは認めることはできず、事件本人が、既に就労可能な年齢に達していることを併せて考慮すれば、相手方の本件養育費請求は理由がない。

まとめ

 以上のとおり、養育費を一括払いで受け取る場合は、その後の事情変更が容易に認められない可能性がありますので、一括で支払を受け取るか否かは、慎重に判断する必要があります。

 なお、養育費の支払い義務者から、中間利息を控除すべきである(中間利息の控除とは本来なら将来受け取るはずの利益を現在で換算するために、利息を控除するというものです。)、一括払いにすると負担が大きいので、一括で払うかわりに減額してほしい等を主張される可能性もあり、月々の分割払いよりも養育費の総額が減ることもありますので、この意味においても、養育費の一括払いについては、慎重に判断する必要があります。