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子どもから親に対する扶養料の請求手続きについて

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 子どもが成人した後であっても、大学や大学院などの高等教育機関に進学した場合や、浪人した場合、留年した場合、最終教育機関を修了したものの何らかの理由で就業できない場合など、子どもが子ども自身の収入で生活できない場合があります。

 子どもが未成熟子の場合、婚姻費用や養育費として、監護親が非監護親に対し、子どもの生活費を請求することも考えられますが、子ども自身が直接、親に対して、扶養料を請求する手続きを取ることも考えられます。

 本コラムでは、子どもから親に対する扶養料請求の手続を説明いたします。

扶養義務とは

 扶養義務とは、自己の資産や労働による稼ぎのみでは自立した生活を送れない人を経済的に援助し、養わなければならないことをいいます。

 民法877条では一定範囲内の近親者に対して扶養義務を負わせており、扶養権利者(扶養されるべき人)は、扶養義務者(扶養義務を負っている人)に対して、経済的援助を求めることができます。

 扶養義務は、「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2つがあります。

  • 生活保持義務:自身と同程度の生活を相手に保障しなければならない
  • 生活扶助義務:自分の生活水準を維持したうえで、余力がある場合に相手に対して最低限の生活を維持させる

 生活保持義務は、生活扶助義務と比べるとはるかに重い義務で、父母は未成熟子に対して生活保持義務を負います。

 未成熟子ではないものの、子どもが要扶養状態にある場合は、親は、生活扶助義務に基づき子どもを扶養するものと考えられています。

親子間の扶養義務

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

民法877条1項

 父母は直系血族に該当しますので、この民法877条1項の条文が、子どもから父親、もしくは子どもから母親に対して扶養料を請求する根拠となります。

扶養料の請求

扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。

民法879条

協議

 扶養の程度や方法については、当事者間での協議が原則となっています。

調停

 扶養の方法や扶養料の支払いなどについて話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に扶養請求の調停を申し立てて話合いをすることができます。

 調停手続では、調停委員会が申立人及び相手方から事情を聞き、扶養義務者の生活状況、経済状況や扶養権利者の意向等を考慮して、双方が合意できるよう話合いを進めていきます。

 なお、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、審判手続が開始されます。

審判

 審判を申し立てた場合でも、調停手続が先行することがあります。 

 審判手続が開始される、裁判官が双方から聴取した事情や提出された資料等一切の事情を考慮して、審判をします。 

審判例(京都家裁福知山支部平成29年9月4日)

事件の概要

 私立医学部に進学した長男Xから、父Yに対して、医学部学費等を扶養料として支払うことを求める審判を申立てた事案です。

 YとXの母は、平成24年にXらが大学を卒業するまで1人あたり月25万円の養育費、及び養育費の一時金としてそれぞれ500万円の支払いを取り決めて調停離婚しました。また、調停条項では、私立大学の医学部に進学することを希望する場合は、Xらが直接Yに対しその旨を伝え、その入学金等が不足する額の負担に付き、当該未成年者と別途協議すると定めていました。

 Xは2浪の末、平成27年に私立大学の医学部に合格しましたが、Yに対し具体的な受験校の連絡をしておらず、医学部入学後に、Yに医学部に進学した旨を伝えるとともに、不足する学費等の負担を求める内容の手紙を送りましたが、Yからは離婚の際に定められた養育費以上の支払はできない旨の返答がされました。

 Yは開業医として整形外科医院を経営しており、平成28年には事業所得として4800万円ほどの収入がありました。また、平成25年にYは再婚していましたが、現在の妻との間に子はいませんでした。

裁判所の判断

 相手方は、申立人が医学部に進学した場合を含めて、申立人が大学を卒業するまでの間、申立人が未だ未成熟子の段階にあるものとして扶養義務を履行することを合意していたものといえる。また、私立大学医学部の学費に関する前記第2の1(4)ウの条項からすれば、本件離婚の際に合意された養育費(一時金を含む)の額は国立大学の医学部や医学部以外の大学(私立大学を含む)への進学を前提として合意されたものであり、本件離婚の時点から、私立大学医学部へ進学する場合には当該養育費のみでは学費等を賄えない事態が生じ得ること、そして、その場合に、上記の養育費の他に、扶養義務の履行として、申立人から相手方に対して追加の費用負担の請求がされ得ることが想定されていたものと解するのが相当である。

(中略)

 このような追加の費用負担の協議を予定する合意が本件離婚の際に調停条項上で明確になされていたこと、相手方自身も医学部を卒業した医師であり、前記1(3)アのとおり、申立人が希望すればその医学部進学を応援したいという意向を持っていたこと、前記1(2)のとおり、相手方が本件離婚当時から開業医として高額の収入を得ており、前記の養育費以上の負担をする能力を十分に有していることからすれば(和解による解決のために提示されたものではあるものの、前記1(6)の相手方の和解案の内容も、実際に、現時点においても一定の追加援助をする能力と意向が相手方にあることを示すものといえる。)、相手方が申立人に対して負う扶養義務に関しては、私立大学医学部に進学した場合の追加援助を含めた相当に高度なものが予定されていたものと認めるのが相当である。

(中略)

 他方で、相手方については、平成25年に再婚して以後、申立人母に対して養育費の減額を求める調停を申し立てたほか(前記1(5)イのとおり、本件医学部への入学直前の時期まで審判手続が続いた上で、最終的には相手方の減額請求が認められなかったものである。)、申立人及び申立人妹との面会や連絡を避けるような態度を取るようになっていたとの事情も認められ(甲40)、申立人と相手方との間で、本件医学部への入学前に私立大学医学部進学に関する相談が十分にできなかったことについては、相手方側の事情によるところもあったというべきである。

 これらの事情からすれば、相手方は申立人に対して、本件医学部在学中の申立人の養育に係る費用(前記1(4)の学納金のみを見ても、これを全て申立人の収入や申立人についての養育費で賄うことは困難であると認められる。)に関して、申立人自身の支払能力や、申立人母の支払能力(前記1(1)ウの稼働状況や前記1(3)イのとおり、申立人母が本件医学部への進学に賛同していたことからすれば、申立人母も相手方と共同して扶養義務を負うというべきである。)等を考慮した上で、扶養料として、既に合意された養育費のほか、申立人に一定の追加負担をすべき義務を負っているものというべきである。

まとめ

 以上のとおり、子どもが子ども自身の収入で生活できない場合、その子どもが直接親に対して扶養料を請求することも選択肢の一つとして考えられます。このような問題でお悩みの方は、ご相談ください。