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医療法人の出資持分の財産分与~夫婦以外の第三者の医療法人の出資持分が財産分与の対象となるかが問題となった事例(大阪高判平成26・3・13)

  • 財産分与

 本コラムでは、夫婦以外の第三者の医療法人の出資持分が財産分与の対象となるかが問題となった事例(大阪高判平成26・3・13)を紹介いたします。

争点

  1. 医療法人の出資持分の評価方法
  2. 親名義の出資持分が財産分与の対象となるか

裁判所の判断

 本件医療法人は,平成10年10月に開設された本件診療所が平成13年4月5日に法人化されたものであり,本件医療法人設立後職員が若干増員されたものの,本件診療所における業務を継続するのに必要なものとして所有する資産や本件診療所の実質的な管理,運営実態等に大きな変化はなく,控訴人が形式上も出資持分の96.66パーセントを保有していることを考えると,本件医療法人が所有する財産は,婚姻共同財産であった法人化前の本件診療所に係る財産に由来し,これを活用することによってその後増加したものと評価すべきである。

 そうすると,控訴人名義の出資持分2900口のほか,形式上控訴人の母が保有する出資持分50口及び被控訴人名義の出資持分50口の合計3000口が財産分与の対象財産になるものとしてその評価額を…算定するのが相当である。

 次に,本件医療法人の出資持分の評価額を算定するに当たっては,収益還元法によって出資持分の評価額を算定し得るような証拠が提出されているわけではなく,純資産価額を考慮して評価せざるを得ない(最高裁平成22年7月判決参照)。

 もっとも,医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)に基づいて設立された医療法人については,社団たる医療法人の財産の出資社員への分配については,収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する同法54条に反しない限り,基本的に当該医療法人が自律的に定めるところに委ねており,本件医療法人のように医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合においては,同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定は,出資した社員は,退職時に,当該医療法人に対し,同時点における当該法人の財産の評価額に,同時点における総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算出される額の返還を請求することができることを規定したものと解されるところ,こうした返還請求権の行使が具体的な事実関係の下においては権利を濫用するものとして制限されることもあり得る(最高裁平成22年4月判決参照)。

 また,弁論の全趣旨によれば,控訴人は,当分の間,本件医療法人において医師として稼働する意思を有していることが認められ,形式上も96.66パーセントの出資持分を保有する控訴人が,現時点において本件医療法人に対して退社した上出資持分の払戻を請求するとは考えられない。さらに,将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面がある。こうしたことを考慮すれば,本件医療法人の純資産評価額の7割相当額をもって出資持分3000口の評価額とするのが相当である。

コメント

 原則として、夫婦以外の第三者の出資持分については、財産分与の対象とはなりません。

 しかし、本事例では、法人化する前から夫が診療所を経営しており、当診療所と医療法人との間で実質的な管理、運営の実態に変化がなかったこと等を考慮して、夫の母名義の出資持分も夫婦の財産分与の対象としました。

 このように、夫の母親の出資持分は単なる名義貸しで、実際に母親からの出資はなかった場合、形式的には第三者の名義であっても財産分与の対象となる可能性はあります。

 また、出資持分の評価にあたって、本事例では、夫が主張した収益還元法による評価ではなく、純資産価額の70%相当をもって評価額と判断しました。

 財産分与のあとに出資持分を保有し続けることが想定される事案において、様々な不確定要素を考慮した上で、純資産価額から一定割合を減じて評価した点で、柔軟な対応を行ったといえます。