財産開示に応じない配偶者への対応|調停・審判でできること
- 財産分与
財産分与の手続において、夫婦の一方が財産を管理し他方がその状況を把握していない場合、財産の隠匿によって適正な分与が妨げられるリスクがあります。これに対抗するため、法改正により家事事件手続法や人事訴訟法に「情報開示命令」が新設され、裁判所が当事者に対し財産状況の開示を命じることが可能となりました。命令に従わない場合には過料の制裁も設けられています。また、審理の過程では調査嘱託による資料収集を検討することも可能です。さらに、調停や審判で財産分与の内容が確定した後は、民事執行法に基づく財産開示手続や第三者からの情報取得手続を通じて、強制執行に向けた財産の調査を行う道が開かれています。
調停・審判段階における情報開示命令の活用
令和8年4月1日に施行された改正法により、財産分与が問題となる調停・審判や、財産分与を併せて申し立てた離婚訴訟において、裁判所が当事者に対し、その財産の状況に関する情報を開示することを命じることができる「情報開示命令」の規定が新設されました。この命令は、裁判所が、必要があると認めるときに、申立てまたは職権によって発せられます。開示の対象は、財産分与の対象となり得る財産に関する情報が中心となりますが、条文上、婚姻中に取得・維持した財産に限定されているわけではなく、具体的な開示範囲は、事案の争点と必要性に応じて裁判所が判断します。正当な理由なく情報を開示せず、又は虚偽の情報を開示した場合には、10万円以下の過料に処せられることがあり、命令の履行を促すための制裁が設けられています。
調査嘱託の活用
相手方が任意の開示に応じない場合、当事者は裁判所を通じて金融機関等への「調査嘱託」を申し立てることが可能です。これにより、相手方名義の口座残高や取引履歴を確認し、共有財産を明らかにできる場合があります。ただし、調査嘱託を行うかどうかは裁判所が判断するものであり、照会先から十分な回答が得られないこともあるため、必ずしも相手方の全財産が判明するとは限りません。
相手方の拒絶理由とその妥当性
財産開示を拒む当事者は、「離婚原因がないため審理の必要がない」「相手方が先に開示すべきである」「特有財産だから開示不要」といった主張をすることがあります。しかし、離婚原因が争われていることや、相手方が先に財産を開示していないことだけで、当然に財産情報を開示する必要がなくなるわけではありません。また、特有財産であるとの主張がされた場合でも、その取得時期や原資などを確認するため、開示が必要となることがあります。
なお、相手方が合理的な理由なく資料の開示を拒み続けた場合、その態度が、既に提出されている資料その他の事情と併せて、裁判所の事実認定において考慮されることがあります。もっとも、財産の不開示のみを理由として、申立人の主張する財産額が当然に認定されるわけではありません。
確定後の強制執行に向けた財産調査
調停調書、確定した審判又は執行認諾文言のある公正証書などの債務名義があるにもかかわらず、財産分与金の支払いがなされない場合には、一定の要件の下で、民事執行法上の財産開示手続や第三者からの情報取得手続を利用することができます。第三者からの情報取得手続では、債務者名義の不動産、預貯金口座、上場株式等に関する情報を取得できる場合があります。なお、勤務先情報の取得は、養育費や婚姻費用等の扶養義務に係る請求権又は生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する場合に限られ、財産分与金の請求のみでは利用できません。
結論
財産を管理する配偶者が財産開示に応じない場合でも、新設された「情報開示命令」による過料の制裁や、調査嘱託等を通じて、財産把握を試みることができます。また、調停や審判で財産分与の内容が確定した後には、民事執行法上の財産開示手続や第三者からの情報取得手続が用意されています。これらの法的手段を適切に組み合わせることで、適正な財産分与の実現を目指すことが可能です。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
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