裁判・審判における親権者の判断基準
改正民法(令和8年4月1日施行)により、離婚後の親権は、父母の協議によってその一方または双方を親権者と定めることができるようになりました。協議が調わない場合や裁判離婚の場合は、家庭裁判所が、父母の双方を親権者と定めるか、その一方を親権者と定めるかを判断します。その際の最も重要な基準は「子の利益」です。
裁判所が親権者を定めるにあたっては、「子の利益」を判断するため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮します。具体的には、以下のような事情が総合的に判断されます。
- 親の事情
監護能力、監護への意欲、子に対する愛情、心身の健康状態、経済力(資産、収入)、居住環境、教育環境、これまでの監護状況、親族からの援助の可能性、面会交流に対する寛容さなど - 子の事情
年齢、性別、心身の発達状況、子の意思・意向、従来の環境への適応状況、兄弟姉妹との関係など
これらの事情を評価する上で、実務上いくつかの基準や原則が議論されてきましたが、その位置づけは変化しています。以下に主要な基準に関する裁判所の考え方を整理します。
母性優先の基準
かつては、特に乳幼児について、母親による監護を優先する「母性優先の原則」が重視される傾向がありました。しかし、この原則は絶対的なものではありません。近年では、家庭における男女の役割分担が多様化し、父親が積極的に育児を担うケースも増えています。そのため、母親か父親かという性別で一律に判断するのではなく、これまでの養育への関わり方、子が誰と心理的な絆を形成しているかといった具体的な事実に基づいて、親権者としての適格性が判断されます。
監護の継続性の基準(現状尊重)
子の生活環境を維持し、心理的な安定を図る観点から、これまで安定して子を監護してきた親を優先する「継続性の原則」は、親権者を定める上で非常に重視される要素です。これを親権者決定の最大の要因と捉える見解もあります。
子の意思の尊重の基準
子の意思は、親権者決定において最も重要な基準の一つとされています。特に子が15歳以上の場合、その意思は最大限尊重されます。15歳未満であっても、年齢や発達の程度に応じてその意思を考慮しなければならないと法律で定められており、実務上、10歳程度以上の子の意思は尊重される傾向にあります。ただし、子の意思が他方の親からの不当な影響を受けている場合や、子の福祉を害するような監護環境が認められる場合には、子の表明した意思とは異なる判断がなされることもあります。
兄弟姉妹不分離の基準
兄弟姉妹がいる場合、彼らの情緒の安定のため、できる限り分離すべきではないという考え方です。しかし、これも絶対的な原則ではなく、子の年齢が上がると重視されにくくなるなど、他の考慮要素との比較の中で判断されます。
重視されない事情
- 経済力
親の経済力は監護能力の一要素ですが、それ自体が決定的な要因とはなりません。収入が不安定であっても、それだけの理由で親権者としての適格性が否定されることはありません。 - 婚姻破綻の有責性
不貞行為などの離婚原因を作ったこと自体は、親権者の適格性とは直接関係しません。ただし、それが子の監護を放棄するなどの行動につながっている場合は考慮されます。
このように、裁判所は「母性優先」を含むいずれかの原則に偏ることなく、あらゆる事情を総合的に考慮して、個々のケースで「子の利益」が最も実現される形を模索します。なお、民法改正(令和8年4月1日施行)で共同親権制度が導入されたことにより、これらの基準が今後どのように運用されていくかは不透明な部分もあります。
共同親権と単独親権の選択
改正法(令和8年4月1日施行)では、共同親権と単独親権のいずれかを原則とするとは定めておらず、個別具体的な事情に即して、子の利益の観点から最善の形が選択されます。
もっとも、共同親権を選択するか否かの具体的判断方法については、改正法施行時点では裁判実務が十分に蓄積されているとはいえません。法律上はあくまで「子の利益」が最終的な判断基準とされているものの、父母が子に関する重要事項を現実に協力して決めていける関係にあるかどうかをどのように評価するかについては、今後の裁判例の形成を待つ部分が少なくありません。
ただし、下記のような場合には、裁判所は必ず父母の一方を親権者とする「単独親権」を定めなければなりません。
- 父または母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき(児童虐待など)
- 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(DV)を受けるおそれがあり、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
- その他、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき
なお、これらの単独親権としなければならない場合に該当しなくても、裁判所は子の利益のために単独親権の定めをすることができます。

